夫へ 60代 秋田県 第7回 銀賞

新しい楽しみをありがとう
相沢 恵美子 様 65歳

 あなた、あなたがあちらの世界へ旅立ってからもう一年も経ってしまいましたね。当初の混乱状態から少し落ち着きを取り戻しつつある今日この頃です。あなたの書斎も整理すると言いながらなかなか取りかかれなかったのですが、最近ようやく遺品を手にする余裕が生まれてきました。一年三ヶ月という短い闘病期間でしたからじっくり本音を聞く機会がなかったのがとても残念ですが、この間発病三ヶ月前の登山日誌を見つけ思わず読みふけってしまいました。山登りの好きだったあなた、定年後は今まで行けなかった山に思いっきり登るという夢も半ばで潰えてしまいましたが百名山は四十数座登ったのだとか、山小屋でのざこ寝が苦手な私は低山だけ同行させてもらってましたね。

テレビの「百名山」で男体山(なんたいさん)を取り上げた時、はっと思って書斎に走りあなたの登山日誌を持ってテレビの前に坐りました。几帳面で記録魔だったあなたは起床時間から食べたもの、お天気、こと細かに記していました。……大きな岩がゴロゴロあり、足が届かない、急斜面を登ると樹木と岩場が交互に現れる。

テレビの画面はあなたが記した状況そっくりそのままを映してくれています。私はテレビを見、あなたの文章を読み、そしてまたテレビで確認し……という作業をしながら、

「ああ、ここを登ったんだ、この景色を眺めたんだね」

と、元気だった頃のあなたの姿を思い浮かべます。険しい山を登って行くあなたと一体化するなんて大げさなことは言えませんが、何ともいえない高揚感を覚えるひとときです。

あなた、新しい楽しみを与えてくれてありがとう。テレビであなたの残した登山日誌に記された山を取り上げるたびに、あなたと共に登る気分を味わえると思うと本当に嬉しい。ありがとう、あなた。

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