お母さん。もうすぐあなたの一周忌が来ます。
長年の教員生活で、散々、通信簿をつけてきたあなたに、今、私が「通信簿」を贈ります。96年間、明るくたくましく生きた、あなたの人生へのハナムケとして……
「先生として」のあなたには、文句なく万点をつけます。退職後も、毎年届く年賀状の束。何十年も前に1年間しか教えていない生徒さんから結婚式のスピーチを頼まれても、何かしらエピソードを見つけていましたっけ。あなたの頭の中は、生徒さんたちと過ごした日々の記憶で一杯だったのでしょうね。
その代わり、「妻として」「母として」には、ちょっと辛めの点数をつけます。60点といったところかな(笑)。家のことは、おばあちゃん任せ。子供たちが病気になると、オロオロして仕事を休むのは、いつもお父さんの方でした。
だから自分自身の病気でもけっして仕事を休まず、結局、無理をしてクモ膜下出血で倒れてしまったのも、学校でしたね。しかし、それからのあなたが、またすごい。大手術を乗り越え、2年間のリハビリに励み、職場復帰。定年まで勤め上げたのですから。
もっとも、終戦直後、お父さんと離ればなれになり、北朝鮮の収容所で乳飲み子を亡くし、命からがらひとり引き揚げてきたたくましさを思えば、その後の苦労など、取るに足らないものだったのかもしれませんね。
お母さん。「人間として」のあなたは、大きすぎて私には点数がつけられません。そして、あなたの人生が幸せだったのかどうかも、私には分かりません。分かっているのh、いつでもあなたが朗らかで温かく、愚痴を言わず、コロコロとよく笑い、少女のようなソプラノで歌っていたということ。
だから、世界でたったひとつの通信簿に、私は書きたいのです。
「あなたの娘でいられたことに、満点!!」と。