祖父へ 20代 愛知県 第7回 佳作

森安 翔平 様 26歳

 「じーちゃんはばーちゃんが嫌い」それが、幼い私が思った祖父の印象でした。すぐに癇癪(かんしゃく)を起こし、煙草を吸い大酒を飲む祖父は、私には恐ろしい存在でした。そんなあなたも90を前に亡くなり、家には背中を丸めた祖母だけとなりました。

半身不随になり、介護が必要で立ちあがる事すらできないあなたを献身的に見守り続けたのは誰でもないあなたの”妻“でしたね。私はそんな”妻“にひどい言葉を吐くあなたが許せませんでした。お茶を勧められれば「もういらないって言ってるだろ!」、祖母の姿が見えなくなった時は「どこにいるんだ!」と叫ぶ、何様のつもりだと、私が憤りを感じたことは一度や二度ではありません。ですが、知っていますか?あなたが大きな音のテレビに夢中の時、祖母がポツリと私に言った一言を。「アタシはじいちゃんがこんなんでも、ずっと生きておって欲しいんや」

当時高校生だった私には、その意味が分かるようで、分からない気がしました。

それからある日、あなたは眠るように亡くなりましたね。連絡を聞いた時、私は悲しい気持ちの中にどこかホッとした想いを感じました。これで祖母が怒られることもなく、倍近い体重のあるあなたを支えて寝室に運ぶ必要もない、と。白い服を着たあなたの傍(かたわら)で、祖母は気丈に振る舞い涙を見せず、やってきた私や遠い親戚達に笑顔すら作っていました。しかし、葬式が終わったあとに柩(ひつぎ)を覗(のぞ)きこむ祖母の顔は、深いシワが更に深くなり、涙を含んでいました。「旅行に連れて行ってくれてありがとう、楽しかったです。ありがとう。美味しいご飯。楽しかった。ありがとう」祖母が精いっぱいに絞り出した言葉を私は忘れません。その時やっと分かった気がします。きっと二人には私には気付けなかった

”絆“があったんだろうな、と。

ホコリをかぶった旅行写真の中で、あなたが祖母に微笑む顔が今の私には素敵な顔に見えます。怖いじーちゃん、でもばーちゃんを愛していたのでしょうね。

天国でもお酒はほどほどにしていてください。孫より。

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