「はい、これ」。
あなたが仕事から帰るなり私に3本の赤いバラの花束をくれたのは、3度目の結婚記念日でしたね。「これから毎年1本ずつ増えていくから…」と照れながら言っていたあなたの顔、今でも覚えています。
それから4本、5本、6本…と家族の幸せが膨らんでいくのと一緒にバラの花も1本ずつ増えていったね。10本を迎えた頃、花束の値段が気になった私は、
「赤いバラって高いでしょ? 違うお花でいいよ。50本とかになったら大変でしょ」と言うとあなたは、
「バラって意外と高いよね。でもまあ俺の給料も少しずつ上がっていくでしょ!」と笑いながら言っていたね。
11本、12本…そして14本目を迎えた年、あなたは心の病気で長く仕事をお休みしていたね。そんな時だったから思い切って、
「今年は私の一番好きなお花が欲しいな」そう言って私はスプレーウィットをリクエストした。14年目のその日あなたがくれたのは花をいっぱいつけた14本のスプレーウィットの花束でした。
まさか…まさかこれが最後の花束になるとは、この時はまだ思いもしなかった。
15年目のその日は病院のベッドの上でした。
16年目のその日、「お花、ごめん」そう言ったあなたに「いいよ。また来年ちょうだいね」と答えた私。その来年はもう来ないこと、お互いに分かっていたのに…。
17回目の記念日に私は自分のしたことを後悔していました。1本ずつ増えていくはずの花束なのに、欲張ってたくさん花をつけたものを注文したからバチがあたったんだと。これから先あなたからもらうはずの分を先取りしてしまったことを一人悔やんでいました。
夏が過ぎ秋が深まる頃、18回目の結婚記念日がやってきます。18本の花束を持ってあなたのお墓に行きますね。これからは私が毎年、感謝の花束をあなたに贈ることに決めました。
「これから毎年1本ずつ増えていくからね!」