父へ 80代 富山県 第13回 銀賞

耳の形
水名 純子 様 82歳

 お父さんお元気ですか、いやそんなわけないでしょう。

なぜなら、お父さんは私がお母さんのお腹の中にいる時に戦争に出征され、その後私が生まれて百日あまりで戦死されたのですから。

でもこんな八十二才の年になっても、まるで小さな子供のように口をとんがらせてお父さんの耳もとに近づいてつたえたい事があるのです。

それは、今まで生きてきて折にふれてお知らせしたいことが沢山ありました。私が嫁いだ事や孫ができた事、お母さんがお料理コンテストで賞をもらった事など、きっとお父さんもいっしょになって喜んでもらえただろうと思います。

ですが今度はそうではなく大発見なのです。

私は今までお父さんの写真を一番格好のいい角度から撮った軍服姿のものを机の上に飾っていました。そして見える右の耳の下の方がややふくらんでいるなあと思っていました。もうセピア色になったその写真をなぜか拡大鏡で見つめていたら、その耳の形が孫の耳にそっくりでした。

自分としては、真実の発見なのです。他人から見れば、とるにたらない事かもしれませんが私にとっては、人間のルーツを見つけたように思いました。父、私、孫へと血はつながるものでしょうね。

私が生れた時は父は戦地でしたし、物心ついた時はもうこの世にはいませんでした。

大きい声でもささやきでも「お父さん」と呼んだことはありませんでした。

私がセピア色の写真を拡大鏡でながめて発見した血のつながりや命の大切さは、心の底から尊いものと思います。

願わくは私の耳もとへ「そんなに似ているかな」とお父さんの返事が聞こえてほしいものですが、叶わぬ望みゆえ観念して今の私の命をていねいに生きて行きます。

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