今頃、天国では走り回っていますか?野球が好きだった君は、訓練の風船バレーに燃えていたよね。動かなくなってゆく手足の進行を少しでも遅らせようとどんな訓練も頑張っていたよね。勉強の時は手が疲れると、鉛筆を口でくわえたり、洋服を口で噛(か)んで動かしたりと、それこそ命を削って学んでいたね。筋ジストロフィー症のみんなはすごく頑張っていたね。
きっと辛いこと悔しいこと悲しいことが言い尽くせないほどあったのだろう。そしてたどり着いたのだろう。その笑顔に。その思いやりに。その強さに。
私は大学を卒業してすぐ病弱の子どもが通う養護学校に配属された。初日に出会ったのは重度の筋ジストロフィー症の高校生だった。ショックだったよ。世の中の高校生が青春を謳歌している時、君たちはベットの上で寝返りさえできないでいるのだから……。それでも誰もがやさしかった。新任教師の私に教えてくれたよ。先のために今を生きているのではないと。今を力いっぱい生きているのだと。
そして井上君は私に言ったね。「先生、赤ちゃんできたら障がいがあっても絶対産んでね。僕はこんな体でも生まれてきて、本当によかったんだから」その言葉は何年たっても心にずっと刻まれていたよ。
井上君ありがとう。私は今、重度の知的障がいを持つ子の母親だよ。その子ももう井上君より大きくなって二十歳になったよ。しゃべれないけど、「シアワセ」って言葉を覚えていつも私に言ってくれるよ。
天国から見ていてくれるかな?みんなにもよろしくね。みんなのおかげで、先生は毎日頑張れるよって。伝えてね。