父へ 70代 愛知県 第15回 銀賞

父さんのアイスクリーム
山田 和彦 様 75歳

   父さん。季節は正直ですね。

 暑かった夏が終わったと思った途端に、秋の風がとても肌寒く感じます。

 この季節になると思い出すことがあります。小学校三年のとき、ツベルクリン反応検査で陽性と診断され、入院こそしなかったのですが、三か月ほど市民病院に通院し、その後自宅療養していた時期がありました。

 自転車の後部にリヤカーを接続し、私は荷台の上で毛布に包まれ、両手で手すりを支え座っていました。走りながら父さんの背中を見て、大人になったら父さんのように、たくましい人間になろうと思いました。

 その年の夏だったと思います。父さんは私に素晴らしいプレゼントをしてくれました。それは手作りのアイスクリームでした。父さんに言われた私は、いつも行っていた駄菓子屋で、かき氷用のブロック氷を買い、細かく砕いた後、塩と一緒に飯釜の中に入れていました。その釜の真ん中に、牛乳と砂糖とたまごを混ぜた液体を、アルマイトの箱に入れ、数分かき混ぜていました。出来上がりを見て私は驚きました。父さんがスプーンですくっ

て、口の中に入れてくれて更に驚きました。この世にこんな美味しいものがあるのかと思うほど美味かった。嬉しくて自然に涙が出たのを今でも覚えています。

 「早く元気になるといいな」 父さんは私の頭を撫ぜながら言いました。二軒長屋の扇風機も無い四畳半の部屋で、毎日臥せっている私を見て、父さんはかわいそうに思ってくれたのですね。

 私はその後、健康な身体になりましたが、父さんは還暦を迎えた年に、病気でこの世を去ってしまいました。父さんが亡くなる数日前、病院に見舞いに行ったときでした。私は市販のアイスクリームを売店で買い、父さんの口元にスプーンを持っていき食べてもらいました。すると、父さんは心から美味しそうな顔をして微笑み、私が子供のとき、アイスクリームを作ってもらった思い出を話すと、久しぶりに病室に笑顔が弾けました。

 最近ではアイスクリームも多くの商品が出回り味も美味しい。けれど父さんが作ってくれた、手作りのアイスクリームにはかなわない。私にとってかけがえのないプレゼントであり、生涯心に残る思い出です。

 私は古希を過ぎ、早いもので五年が経過します、父さんの寿命をはるかに超え、元気に過ごしています。移り行く時代の中で、父さんとアイスクリームの思い出を鮮明に覚えているのは、とても幸せで嬉しく思う今日この頃です。

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