妻へ 60代 神奈川県 第3回 入賞

お母さん、また会おうね
大窪 正宏 様 65歳

 お母さんが突然倒れ、巨大脳動脈瘤であることが分かったときは、突然ハンマーで頭を打たれたような気持ちでした。先生から「こんなに大きくなるまで何か変わったことがありませんでしたか」と尋ねられた時、夫としてお母さんを守れなかったことが悔しくて落ち込んでしまいました。

専門医を訪ね歩き、その中から「尻込みしたくなるような手術。右半身麻痺や言語障害がでることも覚悟してくれるなら、最善を尽くす」と話してくれた先生に、お父さんは手術をお願いすることにしました。お母さんは「お父さんが『この先生に』というならお母さんはいいよ」と言い、手術を受ける決意をしてくれました。

お母さんは約22時間に及ぶ大手術を終えて1週間ICUで過ごし、一般病棟へ移動。麻痺した右手足のリハビリが始まった日は、回復への1歩を踏み出したことが嬉しく、祝杯をあげたいような気分で家路につきました。

まさかその日の深夜に「奥様の呼吸が停止したので至急病院に来てください」との電話を受けるとは夢にも思っていませんでした。

病院に向かう車の中で、その日面会を終え「帰るよ」と左手を握ったときに、お母さんが言葉は出ないものの、じっと大きな目で見つめてくれたことを思い出し、「お母さん、頑張れよ」と心の中で叫び続けました。

緊急手術を終えた先生から「残念ですが、もう打つ手がありません」と宣言されたとき、お父さんは「もうすぐお母さんがいなくなるのか」との思いが募り、お母さんに頬ずりしながら大声を上げて泣きました。

それからお母さんは10日間頑張り抜き、お父さんと子どもたちに別れの覚悟を付けさせてくれました。「ご臨終です」と告げられたとき、お母さんの耳元で「甘えん坊で我儘なお父さんに、長い間笑顔で付き合ってくれてありがとう」とお礼を言ったのが聞こえたでしょうか。

59歳のままのお母さんにまた会える日を楽しみに、その日がくるまで笑顔で残りの人生を生きていきます。

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