ここにはいないお父さん。
入院中毎日付添いで泊まったこと。体調の悪い中、頑張って唱えてくれた本堂での最後のお勤め。自分が一番辛いくせに、私が仕事の後、お見舞いに行くと「毎日ごめんな。ありがとうな」と声をかけてくれたこと。日に日に弱っていく姿を見て、涙が止まらなかった私に、「静香、笑え」と不器用な笑顔を作ってくれたこと。
闘病を始めてから、精一杯生きてくれた三年間。あの頃を思い出すと、今も胸が苦しくなります。辛い思い出だけど、あの期間があったからお父さんと真剣に向き合うことができました。お父さんから愛されたことに気づくことができました。とても厳しいけれど、周りのことをよく見ていて、気働きができて、誰よりも家族思いのお父さん。
将来の不安を抱えていた私に、「静香が幸せになれる人と一緒になりなさい。それがお父さんたちの幸せだからな」。そう言って、そっと背中を押してくれました。
最後まで結婚の報告はできなかったけれど、たくさんの人の笑顔に包まれる中、彼と一緒になれたのは、あの時のお父さんの言葉があったからです。
伝えようと思えば、いつでも伝えられる距離にいたのに、「今言わなくても、明日言えばいいや」。そう思っているうちに、いつの間にか時間だけが過ぎて。たくさんの「ごめんね」と心からの「ありがとう」をきちんと伝えられませんでした。
朝起きて、温かいごはんが食べられて、夜はお布団で眠れて、すぐ傍に大切な家族がいて。そんな何でもない普通が本当に一番幸せなんだって、お父さんが気づかせてくれました。
今の私は、お父さんとお母さんが望んだ子供になれているのでしょうか。楽しかったこと。辛かったこと。悲しかったこと。いいことも、悪いことも。全てが私にとって大切な思い出です。二人の子供に生まれて、今まで大切に育ててくれて、ありがとうございました。
お父さんへご報告です。私、結婚しました。