「ばあばは、どこに行ったの」。なっ子を送った夜、航羽(こう)と遺影に手を合わせた時、突然そう言われた。俺は一瞬、言葉を失った。「ばあばは遠い空のお星様になっちゃった」。そう答えるしかなかった。
それから毎晩、航羽(こう)はベランダに出ては「ばあばのお星様におやすみをしよう」。それが日課になった。
長男で両親と弟二人が居る家に二十二才の若さで嫁いだなっ子。ずっと苦労の掛けっ放しだったのに、いつも笑顔で「おかえり」そう言って帰りを迎えてくれた。本当に俺はなっ子と結婚して幸福だった。
三人の子供に恵まれ、老後は二人で楽しく過ごす筈が癌が見つかり、「これが私の運命ね」そう言ってあっという間に逝ってしまったなっ子。俺はただ泣く事しか出来なかった。
仕事や家事全てをやる事になって、こんなにも大変な事を毎日していたんだと実感した時、何も手伝いもせず本当に申し訳なくて、でももう詫びる事も出来ない。
今は息子達も結婚し、芹里(せり)と柚(ゆず)希(き)も俺の部屋に遊びに来るので寂しさは無くなった。
ゆらが三才の盆の夕暮れに皆で迎え火を焚いた時、火が消えてもゆらが一向に動こうとしない。我々が家の中に入ってからもずっと火元を見たまま座っている。廻りも暗くなったので行ってみると、「ばあばが帰って来ない」泣きながらそう言っていた。迎え火の意味を話してあったので、なっ子が帰ると思い、ずっと待っていてくれたのだ。
なっ子、こんな素晴しい宝物を残してくれて本当にありがとう。だけどもう一度なっ子の笑顔が見たい。もう一度なっ子に会いたい。