おじいちゃんが天国に旅立ったのは、わたしが中学一年のときでした。あれから、半世紀以上が過ぎ、わたしも古希(こき)を迎えました。
わたしは、わずか二歳にして小児マヒを患い手足がマヒして五歳になっても歩けませんでした。おじいちゃんの背中におぶさり親戚が住む町の祭りに出掛けた思い出は鮮明に浮かびます。おじいちゃんが大好きでした。
ところが、ある出来事がきっかけで、わたしはおじいちゃんを憎むようになりました。わたしが五歳の頃でしょうか。ある日、おじいちゃんが恐い顔をしていいました。
「来年は小学一年生だ。歩く訓練をするから」
傍(かたわ)らに、おじいちゃんが作った竹の松葉杖がありました。その日から、歩くための特訓がはじまりました。転んで、おでこから血を流しても、唾をつけておけ、といって訓練をやめさせてくれません。やさしかったおじいちゃんの顔が鬼の顔のようにみえました。
一年間の成果が実り、松葉杖で歩けるようになりました。
父さんが亡くなったのは、わたしが五十歳のときでした。亡くなる三日前に病床で、すでに逝っていたおじいちゃんの話を父さんから聞かされました。
「昔の話だが、じいさんが詫(わ)びていたよ。おまえに辛い訓練をさせてすまなかった、と涙を流していたよ。おまえも頑張った。じいさんを恨むじゃないぞ」
父さんの痩せ細った頬から涙が流れ枕をぬらします。わたしは耐えられず病室をでて、廊下のすみで嗚咽(おえつ)しました。看護師がわたしをみて首をかしげ通りすぎました。
おじいちゃんを嫌っていたことを深くお詫びします。松葉杖のおかげで社会生活が送れました。松葉杖は生涯の伴侶となっています。
父さんから、おじいちゃんの秘話を聞かされて、おじいちゃんの真の愛にはじめて気づかされました。感謝いたします。
ありがとう。おとうさん