父へ 20代 兵庫県 第3回 銀賞 広告掲載

天国のお父ちゃんへ
吉田 紀子 様 24歳

 お父ちゃんが脳梗塞(のうこうそく)で意識不明になってから、どうなったと思う? 家出して二年間行方不明になってた兄ちゃんが、誰よりも早く集中治療室に駆けつけてたんやで。私もお母ちゃんもホンマにびっくりした。お父ちゃんが亡くなる二年前、兄ちゃんは高校を退学になった。家で反抗的な態度をとり家中が大ゲンカになったあの日、お父ちゃんは兄ちゃんを殴りつけて「出て行け!」と言うてしもたやろ。兄ちゃんは何も持たずそのまま出て行った。私もお母ちゃんもすぐに帰ってくると思ったのに全然連絡が無いし「あの日」以来二年間我家から笑顔が消えた。お父ちゃんは「お前はわしの跡取り(あととり)息子やからなー」と可愛がって大事に育ててきたのに、心配しすぎて髪が真白になってしもたね。家出後兄ちゃんは家から遠くない工場に住み込みで働いてたんやて。でも家族のことが気がかりやし、米屋のおじさんにお願いしてうちの様子を二年間伝えてもらってたらしい。バイクで家の前を何回も通り、お父ちゃんの姿を見つけては泣いていたなんて、なんでもっと早く「お父ちゃん、ごめん」と言わへんかったんやろ。いつものように米屋のおじさんがうちに来た時、お父ちゃんが倒れてるのを見つけて救急車を呼び、兄ちゃんに連絡してくれたんやて。病院で兄ちゃんは、二年前あんなに殴られたお父ちゃんの拳(こぶし)を両手で包んで「神様、俺の命を父ちゃんにあげて下さい! 死なんといて……」と拝み続けた。お父ちゃん聞こえてたか? 告別式の段取りを決める時兄ちゃんは「俺が喪主になる」と静かに言った。急いで茶髪を黒に染め直し、礼服に袖(そで)を通した時「いやぁ、若い時のお父ちゃんそっくりや!」二年ぶりにお母ちゃんが笑ったよ。出棺の時兄ちゃんの挨拶があまりに立派で、私は涙が引っ込んでしもた。会葬してくれた米屋のおじさんが一番大泣きしてたで。今、兄ちゃんは一家の大黒柱となって仕事を頑張ってる。お父ちゃんが理想だった「家族円満」で生活してるから安心してや。

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