父へ 40代 鹿児島県 第8回 銀賞

クラゲさん、こんにちは
青屋 恵理子 様 44歳

 お父さん。

お父さんが亡くなって早37年の月日が流れましたね。あの時7歳だった私も、お父さんが亡くなった年齢にあと2年で追いついてしまいます。

お母さんが、「あんたたちが悪い事する時は、いつだってお父さんが見ているんだからね」と脅すような育児をしたものだから、神様を信じるよりもよっぽどお父さんの存在を身近に感じながら成長して、今に至ります。

あの日、棺の中で横たわるお父さんの顔を眺めながら、それでも私は『死』というものがよく分かっていなかった。分からなかったけれど、今日を最後に、お父さんとはもう会えなくなるのだ、という事は、なんとなく理解していました。

誰にも言っていないけれど、あの日、私は心に誓った事があります。「お父さんと一緒に過ごした毎日を忘れない」絶対に!絶対に……。お父さんの顔、お父さんと手を繋いで歩いた時の手の感触、お父さんの歌う声。夜眠る前に目をぎゅっと閉じて、心に浮かべました。必死でした。お父さんの記憶が薄れて行くのが、怖くて仕方なかったから。

でも、哀しいかな、37年経った今。私の記憶で再生出来る内容の少なさを、当時の私が知ったならば、カンカンに怒らせてしまうことでしょう。

そんな私の記憶の箱の中で、しっかりと残っているお父さんとの思い出の一つが、お風呂の中でタオルを使って遊んだ「クラゲさん、こんにちは」。工事のお仕事でどんなに疲れて帰って来ても、お風呂だけはお父さんが私達と一緒に入ってくれましたよね。

「クラゲさん、こんにちは。さようなら。クラゲさん、また明日……」

ふざけた調子で歌うお父さんの様子に大喜びだった私達。今、私は同じ事を、もうすぐ7歳になる娘とお風呂の中でやってますよ。お父さんの歌い方を真似ながら。どうやら、クラゲさんがお父さんの形見となって、代々泳ぎ続けそうです。

「クラゲさん、こんにちは、また明日……」

お父さん、ありがとう。お父さん、ずっとずっと大好きよ。

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