父へ 50代 大阪府 第5回 佳作 広告掲載

父親の気持ち
古垣内 求 様 50歳

 父さん、今日息子を駅まで見送りに行ってきました。三十年前の僕と同じように。あの日、父さんと母さんが僕を見送りに来てくれましたね。今朝、駅で息子を見送っていると、あの日のことが目に浮かんできました。いそいそと出発準備を手伝ってくれる母さんと、なぜか無口な父さんの姿を。

二キロ離れたバス停まで二人で見送りに来てくれましたね。覚えています。

三人で歩きながら父さんだけがひとことも喋らず難しい顔をし続けていました。大阪に行くのだとワクワクする僕の気持ちを少しも分かってくれないと腹が立ちました。

バスの窓を開け、手を振りながら「じゃ行ってくる」と言うと、父さんはひとこと、「今度いつ帰るんや」と、聞きました。 「夏休み」と答えると「そうか」と、ひとこと言ったきりでした。

あのとき、発車したバスの中でひとり考え続けました。なぜ、父さんが今日機嫌が悪いのかと。今日だけでなく、僕が大阪に出て行くと決めた日から、父さんが無口になったと気付きました。

あのときの僕と同じように、今度は息子が東京へと巣立ちました。もう大阪に戻る気がなさそうです。考えてみると、この一カ月、僕もあのときの父さんと同じように不機嫌だった気がします。

改札に入る息子に

「今度いつ帰るんや」と、思わず聞きました。

「多分、夏休み」

三十年前、バス停で交わした会話です。

あの日、僕が大阪で勤め結婚して二度と田舎に戻って来ないと分かっていたのでしょう。僕も今朝息子を見送り、初めてあの日の父さんの気持ちが分かりました。

明日から息子は東京の人となるでしょう。でも、仕方ありません。昔、両親を田舎に残して一人息子が大阪に出たのですから。

少し気難しい父さんの傍に優しすぎるほどの母さんが居てくれて救われました。息子もいまきっとそう思っているに違いありません。今年のお盆には、妻と二人でお墓参りをさせてもらいます。

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