父へ 60代 神奈川県 第5回 銀賞

父への詫び状
石川 美津江 様 64歳

 父さんがあの時死んでしまうと予想できたら、どんなに病院の先生に反対されても、きっと家に連れ帰ったのにと悔やんでいます。

いつに無く「家に帰りたい!」と言った父さん。私も母さんも家に帰るのは無理だろうと反対しました。父さんは肺炎になっていて、無理して家に帰って症状が悪化するより、病院で治療を続けて、治って欲しかったのです。

でも帰れないと思った時から元気がなくなり、病院から連絡を受けた時はもう危篤。意識の無い父さんの冷たい手を握り締めて、私は何度も「家に帰りたかったんだね、自分の最期を感じて家で死にたかったんだね……、連れて帰らなくてごめんなさい。私を許して!」と、心の中でくり返し謝りました。

父さんの死に母さんはがっくりときて、急に弱くなりました。父さんのお葬式だってちゃんと出ているのに、父さんがまだ生きていると思って「父さんのご飯の支度をしなくちゃ」と言います。「父さんは死んだよ」と言っても「そう?」と、聞き返して又少し経つと「父さんのご飯の支度をしなくちゃ」と言います。父さんの死と入れ代わる様に、母さんの認知症が始まってしまいました。

父さんの死と母さんの認知症……、まるで悲しみの二重奏の様です。でも母さんの中ではまだ父さんが「生きている!」のですから、とても感動的です。体の具合も悪いので、父さんと同じ病院に入院させました。いつでも父さんの事を心配して「ご飯の支度をしなくちゃ」と言って、周りの人の涙を誘いました。労り合って「いい夫婦」だったのですね。そんな母さんも、父さんが亡くなってから三年後に亡くなり、父さんの所に旅立ちました。

きっと天国で再会して仲良く暮らしている事と思います。最期の時を家で迎えさせてやれなくてごめんね。父さん母さんの様に私達夫婦も、仲良く生きていきたいと思います。

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