妻へ 50代 東京都 第9回 銀賞

今日もパタパタ
宮島 英紀 様 55歳

 あれから四年……君は一人に慣れたかい?

僕はいまだに淋しくて、ポストをのぞきこむ毎日だよ。ひょっとしたら、君からの手紙が届いているのではないかと思ってね――。

交際をはじめた頃、僕たちは互いに出張で忙しく、なかなか逢えずにやきもきしたよね。メールなんかない時代。駆け出しのふたりには、公衆電話の遠距離通話代金が重荷で、いつしか手紙を出しあうようになっていった。手紙といっても、おいしいケーキ屋を見つけたとか、次のデートで行きたい場所とか、雑談のような内容だったけど、君からの手紙にはいつも季節にあわせた花の切手が貼られ、便箋には可愛いイラストが添えられていたよね。そんな小さな心づかいが嬉しくて、僕はますます君に夢中になっていったんだ。

手紙の習慣は結婚してからもつづけられ、誕生日や結婚記念日、年賀状や暑中見舞い、夫婦喧嘩の詫び状など、折あるごとに互いに手紙を書いて、わざわざ投函したね。僕は「そろそろ君から来る頃だな」と思うと待ちきれなくなり、サンダルをパタパタ鳴らして何度もポストをのぞきにいったものさ。

僕が仕事で大失敗をして、解決のために二週間近くも会社へ寝泊まりして作業しなければならなくなったときのこと。君から僕宛の手紙が会社に届いた。封を切ると便箋に、「きっとうまくいく!」と、大書きされていた。身も心もボロボロだった僕に、その一文がどれほどの勇気を与えてくれたか。君が女房でいてくれることが誇らしく、心から感謝した手紙だったよ。

でも、それからしばらくして君にガンが見つかり、ふたりの暮らしは一変してしまった。君の衰弱は目に見えて激しく、僕も看病に追われて、手紙を書くどころではなくなった。君も伝えたいことがいっぱいあっただろう。あんなにたくさん手紙をやりとりしてきた仲なのに、大事なところで馬鹿だよね。

天国へ行ってから四年だよ。そろそろ一通くらい書いてくれてもいいんじゃないか? ありえないことだとわかっているさ。でも、ひょっとしたらと思うんだ。もう一度だけでいい。君の言葉に触れたくて、今日もポストをのぞきにゆくよ。

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