兄へ 70代 栃木県 第7回 入賞

あんちゃんの父親がわり
柳 徳子 様 75歳

 私が小学六年の時、とうちゃん胃癌で病死。かあちゃんは、目が不自由。

あれからあんちゃん七人弟妹の父親がわり。高校へも、出してくれたよね。卒業の日、父兄席みたらあんちゃんがいた。総代にも代表にもなれないのに、ごめん。それどころか、人並以下の成績だった。

大学にも、出してくれたよね。金喰(かねく)い虫なので、労働のアルバイトで夏休みかせぐと連絡したら、迎えにきた。「帰ってこいよ、大丈夫だから」。上野駅で、パイナップルのアイス、買ってくれたよね。棒つきの硬いキャンデーしか知らなかったから、やわらかさと香りに、驚いたよ。

小学校へ就職もできた。結婚もできた。娘二人も授かった。帰りたい、離婚したい日もあったけど、かあちゃんに、心配かけられない。あんちゃんにも、心配かけられない。

ひたすら勤めと、子育てと、家事に励んだ。

やがてかあちゃんも死んだ。姉二人も欠けた。あんちゃんは、認知症になって死んだ。病院では、冷蔵庫をあけて、人の物をたべてしまうので、追いだされたという。家へ帰ってきては、徘徊し、戻れないとか。息子の嫁さんの風呂を、のぞきみするとか。聞くたびに、会うたびに悲しかったよ。認知症になっても、静かな仏様の風貌。怒ることのない、あんちゃんに私は泣いた。

七人の弟妹みて、疲れちゃったんだよね。あした墓参りに行くよ、一年忌前に。

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