母へ 40代 神奈川県 第11回 銀賞

最後の気持ちです
草柳 ひとみ 様 43歳

「ほんの気持ちです」。あなたが嫁の私に贈り物をする時にいつも添えてくれた言葉です。お誕生日、お中元、お歳暮は欠かさず贈ってくれましたね。実家に遊びに行けば、テーブルの端から端までびっしりのお料理を振るまってくれましたね。帰る時は必ず野菜やお菓子等、おみやげを持たせてくれたね。そして決まって「ほんの気持ちだから」と。私のお姑さん(ママ)はおもてなしの達人だって思ってたよ。

そんなママが乳癌に……。腫瘍の摘出手術、抗癌剤、放射線、民間療法……。色々な治療を試したけど良くなる事はなかったね。そして闘病生活五年目。再入院。医師から告げられたのは「余命三ヶ月。在宅治療か延命治療の選択を考えて下さい」と言われたの。つらい治療の中、ママはいつも笑顔だった。「負けないよ」と。だけど今回の入院と同時に話す事も歩く事もできなくなっちゃったね。医師に選択を迫られた夜、病院のロビーでお父さん、長男(私の主人)、次男、私で今後の事を話し合ったんだ。意見は分かれお父さんは「在宅治療は自信がない。設備の整っている病院でこのまま最期を迎えた方がいい」と。息子達はまさかの父親の言葉に驚いて大反発。「親父つめてえな。最期くらい自宅で面倒みれねえのか!!」と。私達は選択の食い違い、そしてママが生きられないという悲しみの中で大の男三人が人目も気にせず泣き崩れていたよ。答えは決まらずにその何時間後、突然ママは逝ってしまったんです……。

「ほんの気持ちです」。もしかしてママは聞こえていたの?自分の事で家族が言い争ってた事を。私の事で皆を困らす事はできないと思ったの?だから逝ってしまったの?いつもそうやって気配りして。最期もそうやって……。

たまには甘えてほしかった。いつも与えてくれるばかりで。だけどそれがママだもんね。ずっとずっと自慢のお姑さんだよ。

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