夫へ 60代 埼玉県 第12回 佳作

また逢う日まで
福㟢 ひとみ 様 61歳

 がんの告知を受けてからも穏やかに暮らしていたあの頃……散歩中に「今、一つ叶えられることがあるとしたら? 」とあなたに聞かれ……あなたと手をつないで歩きたいなぁって言ったら「なぁんだ、簡単なことじゃないかぁ」と、手をつないで福岡太宰府の土手を歩いてくれましたね。あの時のあなたの手は妙に力が入っていて、ぎこちなくて……ほんとはあなた、そんなに簡単なことじゃなかった? って思えて……そんなあなたがいとおしく感じました。

亡くなる一週間前。身の置き所のないつらさの中にいるあなたの、むくんだ足をさすっていたら、こらえきれずに涙をこぼした私に、優しい眼差しで「泣かなくていい……今は害も毒も、欲も得もない、大海の一滴になった気分だから。自分の人生が終わったとしても貴女の人生は続くのだから……」と、長い間、私の背中をさすってくれました。還暦を目前に、わずか一年足らずの闘病でしたが覚悟も潔さもあっぱれでした。

あれから丸三年。退職したら二人で行くはずだった四国巡礼八十八ヵ所の歩き遍路……今春、六回目の区切り打ちで結願したこと……仕事やボランティアを再開したこと……そして先日、息子の太一が結婚し、あなたに替わって両家の挨拶をしたこと……いつもあなたに頼ってばかりだったけれど……私なりに頑張ったでしょ?

今もそばであなたが励まし、見守ってくれているからです。ありがとう。一番つらかったとき、夢で私の頭を撫でてくれたときはとっても嬉しかったです。人として、親としてあなたに育ててもらいました。

転勤の多いあなたと一緒に各地で暮らしたおかげで思い出がいっぱいです。あなたのいない今でも目にする景色は、かつて一緒に見た思い出と重なります。だから、大丈夫よ。いつか、あなたと再会する日まで私らしく生きていこうと思います。そのときがきたら、約束どおり迎えにきてね。

あなたが今でも大好きです。また、お手紙しますね。

 

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