夫へ 50代 福岡県 第6回 銀賞

いつもそばにいるあなたへ
小俵 道子 様 59歳

 思えば、「絵を描く人が好きだ」という風変わりなあなたのプロポーズから、私達の夫婦生活はスタートしたのですね。共通の喜びを大切にしている人と出会えたことがただ嬉(うれ)しくて、美術教師だった私は迷いもなくあなたと結婚し、専業主婦として暮らしてきました。三十年前のあの時は、急死したあなたにこんな手紙を書くなんて思いもしなかった。今となると、ちょっと切ない昔話です。

二年前の訃報は、外をちらつく雪と一緒に突然私の日常に舞いこんできました。寒さに身ぶるいしながらゴルフへ出かけていったあなた。私が朝送り出してから半日も経たずに脳幹出血でそのまま帰らぬ人となるなんて。「なんだか今日は気が進まないな」というあなたの呟(つぶや)きを、私は何度悲しく思い出したことか。ちょうど二人の子が自立し、親元を離れる矢先でしたね。全く家事をしない、ちょっと亭主関白を気どったあなたと二人きりの生活は心配だったけれど、そんな生活は春が来ても私のもとには訪れなかった。あなた、あんまりだと思いませんか。

あの日を境に、私を取り巻く環境は一変しましたが、私が思い出すあなたはいつも同じ。それは絵に親しむ私を常に側で支えてくれるあなたなのです。覚えていますか?私が初めて自分の絵を公募展へ応募した時のこと。自信作だったのに落選して肩を落とす私に、あなたは笑いながらこう言ってくれた。「一つの事に集中して頑張る時間こそ、神様が君にくれたごほうびじゃないの?それ以上に何が欲しいの?」と。私の絵が業者のミスで出展されなかったら、自分のことのように怒って抗議したこともありましたね。出会った頃から幾度となく二人で美術館へ足を運び語り合った私達の日々は、彩りに包まれていました。

正直なところ、あなたを思い出すと今も涙はとまりません。でも今なお、絵を描くことは私の生活の中心で、そうしてあなたと一緒に生きているのです。

ありがとう、あなた。

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