先生の優しい声が、今も耳に残ります。
「次の同窓会を早くやってちょうだい。私、間に合わないかもしれない」。
何を言ってるんですかと、みんなで大笑いしたのが、つい昨日のようです。先生が担任だったのは、私が小学一年のたった一年間だけ。しかし先生のおかげで、長い学生生活の良いスタートをきることができました。
入学式の日、私の母は入院中でした。晴れ着を着たお母さんと新入生で、教室がどんどん賑やかになっていく中、私と父は壁にへばりついたままでした。その時、スーツを着たおばあちゃん(すみません、私にはそう見えました)が
「お母さんから聞いてますよ。さあここに座りましょうね」
と声をかけてくれました。その人は私を座らせると、そのまま教壇に立ったのです。幼稚園で若い女の先生に慣れていた私は、とてもびっくりしたのを覚えています。そして帰り際には父に
「まもなく遠足がありますが、お父さんはご心配なさらないで下さい。お弁当は私が作りますから」
と言って下さいました。ひょうきんな先生の人気は絶大で、二組ばかりいつも大声で笑っているので、他のクラスの子が何度も覗きに来るほどでした。そんな先生の作ったお弁当が、みんなにうらやましがられたのは言うまでもありません。ぶ厚い卵焼きと、真っ黒に海苔が巻かれた、爆弾のようなおにぎり。私が一生忘れられないお弁当です。
先生の訃報が入りました。やはり間に合わなかったと後悔しました。喪主は先生の一人息子。単身赴任が長く、母のそばにあまりいてやれなかったというその顔は、先生とそっくりでした。もうそれだけで十分親孝行ですよね。どれだけ長く付き合ったかではなく、どれだけ深く心に入ってきてくれたか。大事な種を植えつけてくれた先生でした。