母へ 50代 佐賀県 第1回 入賞

ずっと母と子
吉村 金一 様 50歳

 三月に八十五歳で母は生涯を終えた。母は花が大好きな人だった。わずかなスペースを見つけては種をまき育てるので、狭い我が家の庭は四季を問わず花が咲いていたね。

 昭和五十一年春。東京の大学へ進学する僕を母さんは笑顔で送り出してくれたね。ごみごみとした大都会での息の詰まるような生活。母さんから送られてくる荷物は僕にとって何よりの楽しみだったよ。お菓子や日用品などと一緒に、必ず我が家の庭で摘んだ季節の花々を入れてくれたね。素朴な花々はけがれのない清々しい香りがしたよ。急いで花びんに水を注ぎ、しおれかけた花を活けると辺りの空気がほんわかとしてくるよ。数本の花が一人ぼっちの部屋になつかしい母さんを、そして我が家を連れてきてくれたんだよ。

 翌年の春のこと。母さんは突然遊びに来ることを僕に告げたね。新幹線ひかり号の到着時間だけを知らせて公衆電話を途中で切ってしまったね。何号車に乗っているのか答えもしないで。東京駅の十四番ホームはとてつもなく長い。ホームの一番手前の端で待っていれば全部の車両が僕の前を通るはず

 不安な気持ちでたたずむ僕の前をゆっくりとひかり号が入ってきたんだよ。

(一両目いない、二両目いない、三両目いない いた!)

 僕の目に飛び込んできたのは色とりどりのチューリップの花束だったよ。大きなチューリップの花束を両手で抱え、母さんが窓越しにこちらを見て微笑んでいたね。とても目立っていたその花束のおかげで、大勢の中でも一目で母さんだとわかったんだよ。

 「庭に咲いていたチューリップを全部摘んできたのよ。東京であなたと一緒に眺めたほうがいいわ。チューリップも喜ぶでしょう」

 あの日の鮮やかなチューリップの花束と母さんの生前の笑顔を思い出し、僕は流れ落ちる涙をどうすることもできなかったよ母さん。

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