夫へ 40代 宮城県 第4回 銀賞

今までありがとう
海上 千佳 様 46歳

 その時、おっとうの頭に浮かんだことは何だったろうか……。きっと広と直のことかな。

苦しかったよね。悔しいよね。一ヵ月以上も見つけてあげられなくてごめんね。でも私たち三人は、おっとうの顔がはっきりとわかりましたよ。

おっとうの生まれ育った南浜町は全て無くなってしまったよ。

どうして? いつものおっとうは、冷静に物事を判断できる人なのに……。家族想いのおっとうだから、必死に家に戻ったんだね。

「定年になったらいっぱい旅行しよう」って言ってたくせに……。私一人で旅行してもつまらないよ。仲良く歩いている夫婦を見ると悲しくなる。どこにいても目立つ、あの大きなクシャミは、とても嫌だったのに……。今ではとても懐かしい。さみしい。

冗談で「広済寺のお尚さんに戒名をつけてもらいたい」なんて言ってたけど本当にそうなってしまったね。何にでも全力投球だったからたくさんの人達がお別れに来てくれましたよ。信金やボート協会の方々に支えていただき今日まで来ました。そちらの世界でも、きっと皆のリーダーになっているのかな?

「こんな時、おっとうならどうするだろうか」これからもずっと、私達三人の人生の指針となってくださいね。

たった一つ、津波に勝ったおっとうの腕時計。おっとう愛用のその腕時計は、毎朝直之と学校に行っていますよ。

二十一年間本当にありがとうございました。またいつの日か、会える時まで……。さようなら。

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