父へ 30代 沖縄県 第5回 佳作

お父さんとのおしゃべり
安里 真実 様 32歳

 突然お父さんがいなくなって、もうすぐ3年になるね。

私との電話のあと、2時間後に心筋梗塞で亡くなっていたなんて。出先だったから、ゆっくり話せなくて早々に切っちゃった。あの電話がお父さんとの最後の電話になるとは夢にも思わなかったよ。おしゃべりできなくてごめんね、お父さん……。

ねぇお父さん、知ってる?

高校生の時、友達が

「お父さんなんかと口利かないよ。だって、ウザイよ」って話しているのを聞いて、衝撃を受けた事があったんだ。

だから、帰り道、今日から私もお父さんと話すのはやめようと決心して家に帰ったっけ……。でも、お父さんが帰ってきて、たった5分でおしゃべりしちゃった私。私はお父さんと

話さないなんてできなかったみたい。

大学生になってからは帰りの電車の時間を合わせて帰ったね。

合い言葉は「ビールタイム」

このメールが届いたときには、私はお父さんが飲むビールと自分のジュース、お父さんは私の好きなお菓子を用意して。ボックス席が空いたら、向かい合わせに座って話しながら、ジュースとビール飲んでお菓子食べて。その時間がすごく楽しかったよね。

大学卒業して今から親孝行をしなきゃと思った矢先、沖縄に嫁ぐ事を決めた私。猛反対されると思ったのに、「父さんも母さんを和歌山から福岡に連れてきたから、同じように娘を遠くに連れて行かれても反対はできないな」と言って、「沖縄に親戚ができるのもいいじゃないか」と笑顔で賛成してくれたね。

あれから9年。

お父さんがいなくなったときは4歳と2歳だった2人の孫も、今では7歳と5歳。2人がいつもお父さんにご飯持っていくって、ケンカしてるの知ってる?大好きなおじいちゃんに一日の事をお話しするのが楽しいんだって。仏間のお父さんの写真がとっても嬉しそうだから、あの「ビールタイム」の時のように、きっと楽しく聞いてくれてるんだよね。

これからもずっと、ずっと、いっぱいおしゃべりしよう。

ねっ、お父さん。

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