「新居での生活が楽しみですね」と見なれた懐かしいお父さんの字が目に飛び込んできました。喪中はがきを出すために年賀状を整理していて出てきた私宛のお父さんからの年賀状。お母さんが「結婚したきっかけは手紙だった」というくらい読みやすい字でした。
2月に無事に引っ越しを終えて、家族4人で元気に暮らしています。子供たちはそれぞれに自分の部屋を持ち、少しずつ親離れのきざしが見えています。私は以前のような寒さに悩まされることもなくなりました。お父さんが逝ってしまったのはあまりに急のことで、この家やみんなの暮らし振りを見てもらえないのがさみしいのです。春、桜が咲き、こんなに柔らかい日差しがふり注いでいるのにどうして自分だけがこんなに悲しいのか、涙していた頃からもう半年がたってしまいました。
お父さんが最後に私に書いてくれた字が、病室で書いた新築祝いの振込委任状だったそうですね。お父さんから送ってもらったお祝いで買った木のテーブルでこの手紙を書いています。
お父さんからもらった手紙で心に残っているものは3通あります。
幼稚園の時に宛名が「みき殿」で届いた父の日のプレゼントのお礼のはがき。 「殿って何? ともだちには様で届いているよ」と私が聞いても「わが子に向かって様はおかしい」と言い張っていたおとうさん。
大学生の時に長野のおいしいリンゴを送ってくれ「風邪をひかぬよう」と添えられた一言。
「引越しの手伝いに行けないが、陣中見舞いです」と小さく折りたたまれたお礼に添えられたメモ。
もう、お父さんからの手紙が届くことはないけれど私はお父さんがしてくれたことを忘れません。送ってくれた手紙を生活の中で何かの瞬間に思い出すことがあるでしょう。これからも見守っていてね。