父へ 50代 神奈川県 第12回 入賞

同級生のお父さんへ
宇田川 栄子 様 52歳

同級生のお父さんへ

お父さん、わたし、お父さんと同級生になりました。五十二歳で、早すぎると言われて旅立った、お父さんに、私も、夫も、追いついてしまったの。

夫は、今年お父さんと同じ、癌になりました。親子で、五十二歳の癌。幾日もお父さんにお願いしました、親子で負けさせないで、って。お父さんは、神様でもないのに、困ったかもしれないけど。

手術の後、小さく、小さくなった父親を見て、子どもたちはショックを受けていました。息子は、急に大きくなった掌で、ゴツゴツと、不器用に夫の足をさすりながら、娘は、そっとスマホで夫の症状を検索しながら、いくつもの言葉を飲み込んでいました。夫は、力をふりしぼって「大丈夫だよ」と言いました。

お父さん、彼は勝ったのよ、癌に。二人だけになった時、私は彼に言ったのよ。

「私たち、お父さんと同じ年なのよ、あなたは癌に勝ってくれたわ、ありがとう」

夫は、きっと忘れていたのね、お父さんを一緒に見送った、あの寒い十月を。私の言葉に、とても驚いていたもの。

でもね、いつか、子どもたちも彼に「助けて」と祈る日が来るかも。お父さんがお酒を飲んでは上機嫌で私に言ったでしょう? 「お父さんは、世界で一番お前が大好きだよ」。

口下手な夫は、そんなことちっともできなくて、大事な時は怒ってばかりなの。五十二歳って、思ったより大人じゃないのね、彼も、私も、出会った時から大して変わらないみたい。なのに、眼やら、腰やら、利かないところが、どんどん、どんどん、増えていくのよ。そうして、子どもたちは、ちっともそれに気づかないの。それでも、大丈夫、大丈夫とたった一つの言葉を繰り返す彼の想いは、子どもたちにとって、お父さんと同じ、言葉のハグなのかな、子どもたちにとって、世界で一番のお父さんなのかな、って思いました。

ねえ、お父さん、ありがとう。私たち、五十三回目の春を迎えるね。お父さんの分も生きてみる。来年は、ひとつ、お父さんの先輩です。

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