父へ 50代 山梨県 第12回 入賞

何処かでお会い致しましょう。
堀内 登代美 様 55歳

 平成三十一年春。八十八歳。父の闘病生活が終わりました。お父さん、ずいぶん長い闘病生活になりましたね。今はもう痛いところは無いのかな。大好きだった熱燗も、気兼ね無く好きなだけ飲めるんだね。先に逝ったお兄さんと晩酌でも始めているのかな。

あのね、葬儀場の方が「お父様のお写真を飾りましょう」っておっしゃって、私ひとりで納戸のアルバムを見返してみたんだよ。若い頃のお父さんは、私が見た事もないようなハイカラなお洋服を着て、照れくさそうに笑っていてね。私もついつい、つられて笑ってしまいました。納戸の中、一人ぼっちで笑っていたら、もう哀しいのか可笑しいのか分からなくなってしまって、このまま時間が止まって、お父さんとのお別れの葬儀なんてずっと来なければ良いのになあって考えていました。

ねえお父さん、私は良い娘じゃなかったね。お薬を飲まないとか、私が作った食事でも嫌いな物は食べないとか、そのたびに私はお小言ばっかり言って。もう少しだけ優しくなれたら良かったのにね。もう戻れないんだね。あの頃に戻って「ごめんなさい」って言えないんだね。今、私は悲しくて寂しくて、身体がミシミシきしむように痛いです。

葬儀場で家の次男坊に「お祖父ちゃんは幸せだったのかなあ」って聞きました。次男坊は少し怒ったように「お母さん、こんなにお花を飾ってもらえて、こんなにみんなに泣いてもらえて、これでお祖父ちゃん幸せじゃなかったなんて言ったらバチが当たるよ」って答えました。お父さんの一生が幸せであったのなら良いなって願っています。その幸せの理由の一つに私が入っていたら良いなって思っています。僧正様のお説法で「生まれかわり」のお話を聞きました。お父さん「さよなら」じゃないよね。お父さんに、またいつか何処かで巡り会いたいです。その時にいっぱい褒めてもらえるように私なりに一生懸命生きてみるね。お父さん、ありがとう。さよならは言わないね。またいつか……きっといつか……何処かでお会い致しましょう。

 

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