祖父へ 30代 岡山県 第12回 佳作

おじいちゃんの写真
相根 亜弥子 様 33歳

「仏様みたいに穏やかな人じゃ」と皆に言われていたおじいちゃん。描かれた蛭子様みたいに下がった目尻。ランニングシャツ姿のポコッと突き出たお腹に顔を埋めると、ほんのり香るタバコのにおい。心地好くて、かけがえのない温もり。一緒にセミ捕りに行った焼けるように暑い夏の日が、今でも蘇る。

そんなおじいちゃんに、どんなに話しかけても揺すっても二度と目を開けず、何にも応えてくれなくなったあの日、私は涙が枯れるまで泣き続けた。おじいちゃんが恋しくて恋しくてどうしようもなかった私は、おばあちゃんにお願いして、おじいちゃんの写真を一枚譲ってもらった。選んだのは珍しくキリッとした顔で、ちょっぴり格好つけたポーズのおじいちゃんの写真。色んな写真があったけど、何故だかそれが特別な一枚に思えて、どんな時でも肌身離さず持っていた。人間関係で悩んだ時や学校を辞めようか迷った時、自分が大嫌いで人生を諦めそうになった時、写真の中のおじいちゃんにいつも語りかけた。どんな困難でもその写真を持っていると乗り越えられた。

好きな人ができて想いを伝える時も、写真をポケットに忍ばせて、パワーをもらった。おかげでその彼とお付き合いすることができ、徐々に互いを知り、長い時間をかけて大切な人になっていったある日、私はおじいちゃんの写真を無くしてしまった。落とした記憶は全く無く、でもどこを探しても、どこに問い合わせても見つかることはなかった。おじいちゃんがこの世界から居なくなったあの日と同じくらい、喪失感と絶望感でいっぱいだった。そんな私に母が言った。「あなたを守ってくれる人ができたから、おじいちゃんはようやく安心して天国に行ったのよ」。

おじいちゃん、ありがとう。不安定な私を心配してずっとそばに居てくれたんだね。ずいぶん長い間、孫守りさせちゃってごめんなさい。

でもね、もう大丈夫。私、その彼と結婚して子どもが生まれたの。笑うと目尻が下がって、おじいちゃんに似ているんだよ。毎日しっかり子育てしているよ。

おじいちゃん、天国から見てくれていますか。

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