母へ 60代 奈良県 第12回 銀賞

母を看取る
中村 朱美 様 61歳

 お母さん、お母さんの大好きな施設長が、「最後は娘さん達で看取られては、いかがですか?」と、私達一人ひとりの顔を見つめて、思慮深く尋ねられた。とうとう、その時が来たと思ったよ。だから、私達三人交替でね。付きっきりで、お母さんのそばを離れなかった。

浅い息が時々止まる時、怖かった。

「お母さん! 息して息して」

と怒鳴ったよ。お母さん聞こえていたかなあ。ごめんね。延命治療行わなかった。それが、お母さんの希望だったし、私達娘の希望でもあった。でもね。水のような点滴と酸素吸入だけ。本当にこれでいいのか? 自問し続けたよ。もっと違う治療法があるのではと思ったりして、苦しかった。

しかし、一番苦しいお母さんが一週間も頑張った。すごいよ。辛かったでしょう。食べず、飲まず、栄養や薬一切なし。見ている私達も辛かった。今でも、あの時のお母さんの姿を思い出します。

お母さんは最後の最後まで、お母さんでした。私達に見せてくれたのですね。生を全うすることの厳しさ辛さ、そして大切さを。生きていることの素晴らしさをその姿で教えてくれました。ありがとう。

お母さんは私達の自慢の母です。生前、お母さんが言っていた言葉をよく思い出します。

「お金は天下の回り物! クヨクヨしたら、あかん」

「一生懸命しすぎや! ぼちぼちやり」

おおらかなお母さんの声に包まれて、今、私は生きています。生きて生きて、生き抜いて、お母さんがいる天国へ行くつもりです。その時は、「朱美ちゃん、よく頑張ったね」と褒めてね。

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