昌子よ、ご機嫌はいかがかな。今日は毎年教会で行われるお前の合同追悼祭に出て、お祈りをした。そのあと娘の由佳夫婦と大学生になった孫の宏明と克尚と五人連れ立って墓参りをして帰ったところだ。
十年経ったので、俺は八十五歳になったよ。由佳夫婦も五十半ばを過ぎたよ。孫たちと、お前が今生きていたら、どんなお婆さんになっているだろうかと、みんなであれこれ話をし、大笑いもしたよ。
俺は八十五歳になったが、まだ元気で毎月歌会に出かけているよ。
歌会に出かけると、仲間が「終活、終活」と騒ぐので、俺も少しずつ片付けを始めたよ。先日、押し入れを片付けていたら、見覚えのないセーターが出てきた。
土曜日に由佳が掃除に来てくれたので、早速セーターを出して尋ねてみた。すると、
「これは母さんが編み物を習い、父さんにと編んだものよ。セーターを売っている洋品店に行ってみた母さんが、『私の編んだセーターでは、人前では着られない』と言って、店で新しいセーターを買って、父さんに着せて、自分の編んだセーターは黙って押し入れに仕舞い込んでしまったのよ。これは母さんの編んだ手編みセーターよ」
と教えてくれた。一言俺にも言っておいてくれたらと、今思ったよ。
「母さんの形見のセーターよ。今年の冬は家で母さんの手編みのセーターを着たら。今ちょっと着てみて。私が見てあげるから」
と娘が急かすので、着てみたよ。お前の温もりが伝わってくるような気がして、ふと遠い昔を思い出したよ。
「毛糸も太いし、色もグレイで、父さんによく似合う。家で着るのには、これで十分よ」
ニコニコしながら由佳が言うので、私も嬉しくなって、
「今年の冬はこれで」
と、言いつつセーターを見詰めたよ。ありがとう。