風邪ひとつひかない丈夫なあなたが年に一度の健康診断で引っ掛かり、病院に行くと末期の肺癌であることがわかりましたね。
余命一ヶ月。医師の宣告通り、それからほぼ一ヶ月後あなたは亡くなりました。
私は一人っ子で“まるで姉妹みたいね”と言われるほど仲の良かった私たち親子。
私は信じられませんでした。陶器のように冷たくなったあなたの手を握ったのに。土気色になったあなたの顔を確かに見たのに。
それなのに、そのうちひょっこりとあなたが帰ってくるような気がして…
現実を受け入れられませんでした。どうしたらあなたが帰ってきてくれるのか私は考えました。生前“ごはんちゃんと食べなよ!”が口癖だったあなた。私はハンストをすることにしました。心配したあなたが怒りながら『何しとるの!?』と戻ってきてくれるかと思ったのです。
三日後、私は高熱を出し病院へ運ばれました。点滴から落ちる栄養剤のしずくを見ながら、涙ってこんなに出るんだというくらい泣きました。
“母さんは、もういないんだ”
あの時─あなたに捨てられたような気分になっていたのも事実です。
でも。そうじゃないんですよね。
あれから十六年が経ち、私は思うのです。置いていかれる私よりも置いていくあなたの方が何十倍も何百倍も辛かったのではないかと。“もっと一緒にいたい。離れたくない”そうより強く思っていたのはあなたの方ではなかったのか…と。それなのに、ごはんも口にしない私を見てどれほど心を痛めたか。
ごめんなさい。ごめんなさい。
ねぇ母さん。私は今、自分の人生を前を向いて楽しく歩いているよ。産んでくれてありがとう。だから、あなたに伝えたいの。
「安心してね。私はもう大丈夫だよ」って。