おばあちゃんが亡くなって何年経つのか分かりませんが、今でも覚えています。
冷えた掌、施設の匂い。
おばあちゃん、優しくできなくてごめんね。
天国に行って、私の事が誰なのか、思い出してくれましたか。
私が孫だということを、私の名前を。
当時小学生だった私は、何度となく繰り返される妄言や徘徊に耐えられず、正しい知識もなく、おばあちゃんのことを叱ったり、時にはもっと酷いことをしてしまいました。
見知らぬ人に叱られる恐怖から、両手で顔を覆って泣いているおばあちゃんが、今でも焼き付いて離れないのです。
おばあちゃんの口癖だった、「帰りたい」という言葉。行く当てがなくたって、一緒にどこまでも歩いて、おばあちゃんが探している場所まで歩いたら良かった。「ご飯まだ食べてない」。好きなものを、食べたいだけ、食べさせたら良かった。「アンタ誰? 」。そっと手を握ってあげられたら良かった。
おばあちゃんごめんね。たくさんの愛情を与えてくれた大切な家族に、自分がしてしまった情けない数々の出来事を、今でも後悔しています。
行きたかった場所、会いたかった人、過ごしたかった時間、もう取り戻せないけれど、天国に行ったあの瞬間、全てのことを思い出すことができていますように。
あなたはおじいちゃんと結婚して、お父さんを産んで、私が産まれたんだよ。イカメンチが上手だったおばあちゃん。内緒で高い着物を買っていたおばあちゃん。全部ぜんぶ、思い出せていますように。