父へ 30代 東京都 第4回 佳作

100円玉の使いみち
多田 映子 様 39歳

 きらきらのシール3枚、サメの歯、シリコン素材の不思議な粘土……これらが、お父さんが孫である私の娘(もうすぐ5歳だよ)にくれたプレゼントです。お金の出処(でどころ)はどこでしょう? と言っても天国からお見通しだろうから、そのお金を使おうと思った心境の変化を記します。

私が12歳のとき、胃がんで闘病中の45歳のお父さんは、亡くなる数か月前に、貯金箱にためてた100円玉を私にくれたでしょ? 死期が近いことを悟ってたんだろうね。100円玉は1万8千円分ありました。お父さんが亡くなったあとお母さんは「銀行に貯金したら?」と言ったけど、私はなんとなくそのままにしておいた。そして、免許を取るとか、成人式とか、そういう記念になることに使おうと思ってたんだけど、大量の100円玉ってなかなか使う機会がないのよ。

そして28年経って、12歳だった私は39歳になり、私の娘は5歳になり、今年の夏、テレビのニュースを見ながら、「お墓って何?」「お盆って何?」などと言うようになった。感慨深いよ。そして、良い機会だと思い、人が「死ぬ」ということを、私の言葉で説明してみました。

「死ぬとご飯が食べられないし、もうしゃべれない。お母さんのお父さんは、お母さんが子どものころ死んじゃった」

すると娘は「お母さん、かわいそう」って。子どもなりに、人の死を理解しつつあるんだなぁと感じたので、ここであの100円玉の登場だとヒラメイタわけ。子どもの欲しがるものを購入するには、100円玉はうってつけだからね。いいアイデアでしょ? そもそも、あまりおねだりをしない子なんだけど、ときたま欲しがるものを、「おじいちゃんから預かっておいたお金だから、心の中で、おじいちゃんに『ありがとう』って言ってね」と話しながら、ちょっと古くなった100円玉を使ってます。

今、900円使いました。当面、あのときのお金が、孫を喜ばせてくれそうだよ。

ありがとう。それではまた。

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