祖母へ 30代 東京都 第14回 入賞

エラ張ってこう
川和 智美 様 31歳

 おばあちゃんへ。エラなんて言っても、何のことだか分からないでしょうね。でも私にとってはおばあちゃんとの一番の繋がりであり、思い出なのです。

 あなたが亡くなったとき、生前に見せてくれた穏やかな笑顔や、優しい言葉の数々を思い出して、涙が止まりませんでした。

 しかし葬儀の終盤で、私の悲しみは一転、衝撃に変わったのです。火葬が終わり、あなたが白い骨の一部だけを残し、旅立ったとき、お骨を壺に納める前に、斎場の方からの説明を受けました。

 「こちらは下顎の骨です。歯もきれいに残っていますね」

 その一言と、職員さんの手元に、私は釘付けになりました。このくらいしっかりと残っておられるのは珍しいです。と職員さんは言葉を続けました。

 (あぁ、エラだ)

 私はすぐに理解しました。下顎のちょうど角ばっているところ。下顎角は、俗にエラといわれます。私の顔は自他共に認めるほどあなたに似ていて、とりわけ目立っていたのはそのエラの張った輪郭や、四角い横顔のラインでした。子供の頃は周囲から笑われたり、心無いことを言われて傷ついたりもしました。思春期の頃、美容整形が流行り出しました。自分と同じような悩みを持つ人が、魔法のように美しい顔を手に入れる。そんな様子をメディアで見ては、羨ましくてたまらず、眠れなくなる夜もありました。

 けれど、その全てを忘却してしまうような、あのときの驚き。あなたの白いエラから目を離せないまま、自らも持っているこれを、失ってはいけないのだと強く思ったのです。

 大人になり、今ではそんなに容姿は気にならなくなりました。この顔はほとんどあなたに貰ったものだから。これからも、胸張ってエラ張って、生きてゆこうと思います。おばあちゃんありがとう。

大好きだよ

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