祖父へ 30代 東京都 第10回 銀賞

「やめて」と言えた日
広田 紗知子 様 36歳

 じいじが天国に旅立ったのは、私が小学6年生の時だったね。じいじは孫の中で一番小さくて、内気で体も弱かった私を誰よりも可愛がってくれたね。

当時、学校でいじめられていて居場所のなかった私をじいじは、「いつでも来ていいよ」、「辛かったら、じいじの所に逃げておいで」と言って、いつも励ましてくれたよね。私が泣いていると、「さっちゃんをいじめる奴はここ連れて来い、じいじがやっつけてやる」と言って私を勇気づけてくれたこと、一生忘れないよ。学校は地獄だったけど、じいじといる時間は天国のように幸せだったよ。この幸せな時間があったから、私は毎日いじめを乗り越えることができたんだよ。

そんなある日の学校の帰り道。妙に胸騒ぎがして走って家に帰ると、じいじが亡くなったという悲しい知らせが……。意識が朦朧とする中、「さっちゃん、さっちゃん」と言っていたことを聞いて涙が止まらなかったよ。

葬儀の翌日、学校に行くと、いじめっ子が来て「ジジイが死んだんだってね」と笑いながら言って来た時、私ね、初めて「やめて」と言い返したんだよ。今までは怖くて何言われても黙ってたけど、その時だけはどうしても許せなくて、大きな声ですっと言えなかった「やめて」が言えたんだよ。自分の悪口は我慢できたけど、大好きな優しいじいじのこと「ジジイ」と言われた時は、我慢できなかった。

じいじ、心配かけてごめんね。私、強くなったよ。じいじが私を強くしてくれるきっかけをくれたのかな?私ね、この日を機にいじめられても泣かないくらい強い子に変わったんだよ。だけど一つだけ変わらなかったことがあるの。それは、いくつになってもじいじっ子だということ。それだけは、いくつになっても変わらない。36歳になった今でもじいじっ子。弱虫で泣き虫な格好悪い私でも、世界一かわいい、大好きと言ってくれてありがとう。

私もじいじが世界一大好きだよ。

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