祖父へ 30代 東京都 第8回 佳作

ごめんね、おじいちゃん
芹澤 麻衣子 様 30歳

 おじいちゃん、天国での暮らしはどうですか? 元気でやってますか?

おじいちゃんが癌で逝ってしまってから、ちょうど二十年になるね。私は二十年間ずっと後悔していて心に残っていることがあるの。そのことで今日はおじいちゃんに謝りたいんだ。

おじいちゃんが一時退院で実家に戻っている時に、ふたりで一緒にテレビを観ていた時のこと、憶えてる? その時おじいちゃんは家族の誰かが支えていないと歩けなかった。それなのに「麻衣子、トイレに行きたいんだけど」って言われた時、私はテレビに夢中ですぐに連れて行ってあげなかったよね。おじいちゃんが三回目にそう言った時、私はしぶしぶおじいちゃんをトイレに連れて行って、おじいちゃんのズボンを下ろして、トイレさせてあげたんだ。

今思い返しても、なぜすぐに連れて行ってあげなかったんだろうと思うよ。おじいちゃんはいつも通り穏やかに「トイレに行きたい」と言ったね。間に合わなくて、トイレの床に漏らしてしまうほど我慢していたのに。そしてそのことで私に申し訳なさそうに謝って、「麻衣子は優しい子だなぁ」って言ってくれたんだよね。涙を拭きながら。

私は全然優しくないよ、おじいちゃん。当時私は体の自由が利かないという事の意味がわかっていなかった。小学三年の孫にトイレに行きたいと言いズボンを下ろしてもらう事が、おじいちゃんにとってどんなに辛かったか、私はわかっていなかった。でも今ならまだわかるんだ、あの時の事を思い出すと胸がしめつけられるほど切なくなるよ。おじいちゃん、あの時辛い思いをさせてごめんね。思いやりを持てなくて本当にごめんね。そんな私なのに、優しい子だと褒(ほ)めてくれて愛してくれてありがとう。そんなおじいちゃんの孫でいられた十年間、私はすごく幸せだったよ。

また会えるのはずっと先のことだけど、その時は一緒にお酒飲もうね。私、おじいちゃんに似てお酒強いんだから。ふたりで酒盛りするのを楽しみにしているよ。

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