父へ 60代 福岡県 第14回 入賞

父さん、会いたいよ
三島 正枝 様 64歳

 父さん、会いたいよ。

 父さん、とっても会いたい。父さんが亡くなって早いもので、もう五年になります。嫁ぎ先の軍人だった舅は、できの悪いあたしにいつも言っていました。

 「あなたは、いつも一生懸命にしている。けれど結果が悪い。結果が悪ければ何にもならない。だからあなたは私の娘よりはるかに劣る」

 泣いて泣いて、父さんに話しましたね。父さんは泣きじゃくる私に

 「俺は、そうは思わんぞ。結果が悪くても、一生懸命に頑張っているおまえは偉い、おまえは偉いぞ」

 そう言ってくれましたね。できの悪い娘です。できの悪い嫁です。一生懸命に頑張っても嫁ぎ先の眼鏡に叶う結果は残せません。

 でもね、父さんの言葉があったから、私はなんとか四十年も頑張ることができました。父さんが旦那様を可愛がってくださったから、なんとか夫婦でいられました。父さんが「俺が末っ子のおまえが可愛いからしたこと」と世間に言いわけをして守ってくださったから、なんとか追い出されずに生きてきました。

 父さん、いじめで不登校、高校も中退した息子が来春には結婚しますよ。連れてきたお嬢さんは優しい心根の方でね、長女の障がいがある孫を驚きもせず、温かい眼差しで見てくれました。

 あの時、いじめで苦しむ娘と孫に父さんは言ってくれましたね。

 「いじめられる方で良かった。いいか、いじめをする心は鬼だぞ、俺はそんな恐ろしい孫はいらん」

 戦争の事は話さない父さんが一回だけ言いましたね。

 「戦争は一番仲が良い相手とわざと組ませて殴り合いをさせる。力いっぱい殴らないと上官から殴られる。それが戦争だ」

 戦争はいけない。いじめもいけない。人の心が鬼になるから、そう言いたかったのですよね。

 父さん、会いたいです。会って「父さん」と何百回も声に出して言いたいです。父さんが亡くなりもう会えなくなって、どれだけ大事な人だったか、やっとわかってきました。

 父さん、ありがとうございました。ほんとうにありがとうございました。感謝、合掌。

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