父へ 40代 埼玉県 第3回 入賞

父さん、ありがとう
桐木 基晴 様 45歳

 父さん、元気か、俺は元気にやってるよ。今、何してる、元気で楽しくやっていればいいけど。

父さんがこの世からいなくなってもう、四年になるのか、早いもんだなー。あまりにも突然だったからなー。

俺、父さんにお礼したいことたくさんあるんだ。つりを教えてくれたこと、すもうを教えてくれたこと、マラソンやキャッチボールを一緒にやってくれたこと、その中でも一番忘れられないことがある。父さんはおぼえていないだろうな。

俺が小学三年生ぐらいの時だったと思うけど、妹のおもちゃをこわしてしまったんだ。まだ小さい妹の大切なおもちゃを乱暴にあつかってさ、でもわざとじゃないよ、それなりに反省してたんだ。けど母さん、ひどく頭ごなしに怒ってさ、悪いことしたと思っていたのに……。俺、頭にきて、「こんな家、出てってやる」って言って、飛び出したんだ。そして、馬小屋のワラの中にかくれていたんだ。母さんに心配かけて困らせてやりたかったんだよ。でも一時間たっても二時間たっても誰もさがしにこなかった。その内、周りはどんどん暗くなってくるし、こわいし、もう泣きそうだったんだ。その時、父さんの車の音がしたんだ。俺はワラをもすがる思いで走っていった。そして父さんが泣きそうな俺を見て「何やってんだモーチ、帰るぞ」と言ってくれた時、本当にうれしかった。あの時の父さんの笑顔は今でもはっきりおぼえている。

他にもこういうの、たくさんあった。悪ガキだった俺を、父さんはほとんど叱らなかった。逆に、かばったり、味方してくれた。どうしてだ父さん。

そんな俺にも今、妻と二人の息子がいる。俺、家族を幸せにしたい。命がけで守りたい。

父さん、話したいことがたくさんある。いつかまた会えるよな、きっと。

父さん、ありがとう。

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