父さん、亡くなった日、病室で最後におしゃべりしたこと覚えていますか?「数学で一番大切なことは答えじゃない、答えにたどり着くまでの計算式だ」って。なぜかこの話題になったね。このときはいつも通りだったのに、私が家に戻って2時間後には逝ってしまうなんてずるいよ。父さん、最期一緒にいられなくて本当にごめんなさい。
小学1年から中学3年まで、父さんは、算数数学の苦手な私に何度も分かるまで教えてくれたね。図や表、ときには模型まで作って説明してくれたこともあったね。それでも理解できない私に、真剣になりすぎて途中で怒り出すことも何度もあって。怒りながら教えるから、私も小学生のときはよく泣きじゃくりながら問題解いて。けど、「もう無理」って言うと父さんは「これが無理ならこれから何でも無理になる」ってもっと怒るから私も必死だったんだよ。しかも、答えが出ても、途中の計算式を書かないとまた怒る。「順序立てて整理して書くことが次の考えに結びつくから、途中の式は大切なんだぞ。むしろ答えより大事だ」って。だから思わず「途中の計算式書いても、答えが合ってなかったら点数はもらえないよ」って言うと、はっきりと「それでいい。自分の考えを書いたのなら0点でも良い」と言ったのには正直驚きました。
怒られながら泣きながら、それでも9年間、分からない問題が出るたびに根気強く教えてもらったことが、今では大切な私の財産です。
父さんが亡くなってもうすぐ1年。父さん、私今ね、答えにたどり着くまでの計算式を毎日歩き続けている気がして仕方がないんだ。この1年、多くのことに悩み、そしてまだ答えは見つからないことばかり。けどね、「答えにたどり着くまでの計算式」を心の支えに、決して諦めず、順序立ててじっくりと取り組んでいくね。私の考えの基盤を作ってくれたのはまさしく父さんです。父さんいつもありがとう。今日も天国から見守っていてね。